01.
大切なことを、大切にできる人生がいい
今の仕事

GiFTNORiKURAのカフェマネージャーとして働いています。接客業務に加えて、経営や商品開発の部分にも携わりながら、訪れる人たちにサスティナブルなアクションを提案しています。
そのかたわらで、保育士もしています。地域の保育園と、のりくら自然保育きのこ、両方で子どもたちと関わっています。

人生で欠かせないこと

私の人生には、欠かせないことがふたつあります。一つは、子供と関わること。もう一つは、自然の近くで生きること。

Raicho来る前は地元の愛知で5年間、保育士として働いていました。子供たちと関わることは、私のエネルギー源ですね。本当に子供が好きなんです。
「自然が大好き」という感情も、人生を歩むうえでなくてはならないものです。幼い頃から、よくキャンプや登山に連れていってもらって、綺麗な景色をたくさん見てきました。自然に近い場所にいると、心が広くなって、余裕を持って生きられる気がします。

大好きな自然と、大好きな子どもたち。自分にとって大切にしたいことを、乗鞍では両方大切にできています。子供たちが大人になっても、乗鞍のこの景色が残っていたらいいなと思う。そのためのアクションを自分から起こして、周りにも広めていきたいと思っています。

自然との思い出

小学生の頃、蝶ヶ岳で雷鳥の親子に会ったことがあります。
当時まだ小さかった私にとっては、結構きつい登山道でした。山道を進んでいると、前のほうから「雷鳥いるよ!」という声がして。登山者の方が教えてくれたんです。顔をあげると、目の前に雷鳥の親子が歩いていました。
親子で歩いている姿は、すっごくかわいくて。こんな厳しい環境の中で、こんなかわいい動物が頑張って生きているのを目の当たりにして、子供ながらにすごく感動しました。雷鳥という存在は知っていたけど、中々見られないということは母親から聞いていたので、とても貴重な瞬間に出会えたのだと思いました。刺激を受けましたね。

登山の思い出で他にも印象的なのは「人がすごく優しかった」ということ。気持ちよく挨拶してくれるし、みんなすごく褒めてくれるし。知らないおじちゃんが「頑張ったな」ってクリームパンをくれたことを、今でも覚えています(笑)。だから大人になってからも、私は山で人と関わることがすごく好きです。自然の中だと心がオープンになって、嬉しい気持ちを共有したくなるし、他人に優しくしたいと思える。幼い頃からたくさん山に連れて行ってくれた家族には、本当に感謝しています。

自然に感動した体験があるから、自然を大切にしたいと思う。自然の中で優しくしてもらった経験があるから、私も人に優しくしたいと思う。私にとってはそれが、「自然に還る」ということなのかもしれません。

02.
乗鞍の景色を、未来の子どもたちに残したい
Raichoに来るまで

長野県のことは、幼い頃から大好きです。幼い頃から年に2回くらいは、スキーや登山をしに来ていました。母親は20代の頃乗鞍でアルバイトしていたようで、よく話も聞いていました。
山に登るたび、「私は、こういう景色を年に一回は見ないと絶対に生きていけないな」と思っていました。でも大人になるほど、山に行ってゆっくりする時間をあまり取れなくなってしまって。もっと自然に近い場所で生きたいな、と思っていました。

保育士の仕事は大好きでしたし、やりがいもありました。でも、「この方法でいいのかな」と思うこともあって。1クラス30人を一人で受け持つような環境だと、どうしても、一人ひとりの気持ちに応えてあげられないことが多かったんです。子どもたちのことは大好きなのに、寄り添う保育ができないことが心苦しかった。「制限する保育は違うな」とずっと思っていました。
だから、自然保育にとても興味を持っていました。自然って楽しいよということを、子供たちにも伝えたかった。山を知らない、あまり自然を感じたことない子供たちに、もっと広い世界を見せてあげたい、制限なしでやらせてあげたいという思いが、ずっとありました。

と同時に、保育とは全く別のことをやってみたいとも思っていました。自分が子育てをした時に、いろいろな引き出しを持っている大人になりたかったんです。ずっと子どもたちのために生きてきたので、一度、自分のためにやりたいことをやって生きてみたかった。
そこで考えたのが、カフェで働くことでした。元々、カフェや雑貨、人と関わることが大好きだったので。性格上、思ったことはやり遂げないと諦めきれなくて(笑)。思ったら動くしかないですよね。やってみて自分で納得がいかなかったら戻ろう、だからやってみよう、と決めました。当時の子供たちや先生方と離れるのは、さみしかったですが…。

そんなとき、久しぶりに母親とふたりで乗鞍を訪れる機会がありました。Raichoからも近い一の瀬園地に行って、ふたりで景色を眺めたんです。昔は、ここで牛が飼われていたんですよ。牛が草を食べるから、草原が綺麗に保たれていました。でも、あるときから牛がいなくなってしまって。だから、白樺の新芽がいっぱい生えっぱなしになって、綺麗な状態に保たれなくなってしまった。
「なんだかさみしくなってしまったね、草原も雰囲気も」
ぽつん、と母親がつぶやいた言葉が、私の心を揺さぶりました。昔はここにあった景色が、今ではもう見られない。そう思ったら、目の前に広がる草原の景色が、急に心に刺さって。そのとき、「次に私が生きるのは乗鞍かもしれない」と思いました。

そんな中で見つけたのが、GiFTNORiKURAです。最初に見たとき、「乗鞍におしゃれなカフェができてる!」とわくわくしました。中を見てみると、すごく地域に密着していて、環境に対して進んでアクションをしようとしていることがわかりました。こんなに山奥なのに、すごく新しいことをしている、これは面白そう、と思ってインスタを見に行ったら、藤江さんを見つけて。そこから雷鳥の宿の存在を知りました。

新しい環境で働くんだったら、その地域に愛を持って、何かに対して目標を定めて、一直線にひたすら頑張ってる人の下で働かないと面白くないなと思っていました。藤江さんのことを知るうちに、「このひとは確実に面白い人だ」と感じました。求人は出ていなかったんですが、「ここしかない!」と思って問い合わせました。ここは、自分がやりたいことを叶えられる場所だと思った。やりたいことが詰め込まれていて、すごくマッチしていると感じた。いてもたってもいられなかったです。本当に、運命的な出会いでしたね。

日々のサステイナブルアクション

乗鞍に来て、圧倒的な自然とその美しさを目の前にしたとき、母親が言っていた「さみしくなってしまったね」という言葉を、すごく重たく感じました。母親と昔見ていた景色と、私が今見ている景色は違う。子供たちと一緒に生活したり遊んだりするなかで、「今見ているこの景色を、この子たちは20年後30年後も見られるのかな、やっぱり、変わっていってしまうのかな」と考えて。それは、すごくさみしいことだと実感しました。

私はここに来たのだから、もう他人事ではありません。見て見ぬふりはできない。小さなことでも、できることをやるしかないと思っています。
たとえばカフェのマネージャーとして、ここに来る観光客の方や、昔の乗鞍を知っている方に、生活の中でできるアクションを投げかけること。ゼロカーボンを達成するために、「乗鞍に来るならばマイボトルだよね」というメッセージを伝えていくこと。乗鞍の自然を未来に残すためのアクションを、自分事として捉えてもらえるように。いつも心がけて接客しています。

あとは、破棄をなるべく出さないこと。飲食の現場ではごみがすごく出てしまうので、なるべく破棄を出さないように、しっかり計算をして物を作ったり、ごみの再利用方法を考えたり。今は、コーヒーかすの再利用方法を検討しています。コンポスト以外に、何かに使えたらいいなと思って。
「地域を循環させる」ことも意識しています。メニューの一つ「白樺のお茶」には、環境整備のために伐採された白樺を使っています。切られた苗木がそのまま放置されていると、捨てられたり燃やされたりしてしまうんですね。せっかく綺麗な木なんだから、地域循環につなげられないかなと思って。こういった取り組みを、ちょっとずつ増やしていきたいと思っています。

個人としては、切られた植物を拾ってスワッグを作ったり、白樺の皮でイヤリングやピアスをつくったり、カラマツなどを使ってアロマサシェを作ったりしています。最近は、乗鞍にブライダルフォトを撮りにきた方のためにスワッグをつくりました。今は趣味程度ですが、お店で取り扱いができるようになったら楽しいかも。

私自身、元々自然が近い場所に住んでいたわけではないので、環境に対して具体的なアクションをするという感覚があまりありませんでした。でも乗鞍に来てからは、一年以上ペットボトルを買っていません。こうしたちょっとした意識の変化が、自然の風景を守っていくことに繋がるんじゃないかなと思います。

地域を繋ぐ新聞刊行

乗鞍に関わりがある人たちで集まって、乗鞍を発信する新聞をつくっています。名前は『白樺新聞』。回覧板で配っています。

乗鞍にはお祭りが少なくて、地域のことを共有する機会がないんですよ。だから、乗鞍に住んでいても乗鞍のことをよく知らない人も、たくさんいると思うんです。ゼロカーボンのモデル地域に認定されたけれど、おそらく全然知らない人も、他人事に感じている人もいる。「未来のことは若者にまかせた、私たちはいいよ」と言っているおじいちゃんおばあちゃんにだって、ちゃんと乗鞍の今と未来のことを伝えたいんです。

制作メンバーは、みんな違うかたちで乗鞍と関係を築いています。以前まで乗鞍に住んでいて今は別の場所にいる人もいれば、ずっと乗鞍で育って暮らしている人、東京から乗鞍に通っている人、以前まで乗鞍に住んでいた人もいて…そして、愛知から乗鞍に移住してきた私のような人もいます。いろいろな人がいろいろなかたちで乗鞍と関わっているからこそ、乗鞍のことを届けられる人がたくさんいるんです。私は移住者として、わからないことや知りたいことがたくさんあるので、乗鞍の人にインタビューをしに行く企画を行っています。

私はありがたいことに、乗鞍で地域の人々と繋がるのが早かったなと思います。自然と繋がりができて、繋がりが繋がりを呼んでいった。だから今度は私から、繋がりを広げていきたいと思っています。

03.
子供も大人も、健やかに生きられる場所であるように
目指していること

私は、乗鞍で子育てする人を増やしたいです。そのために、これから変えていける部分はたくさんあると思います。
乗鞍の子育てには、まだまだ課題があると感じます。もし自分が乗鞍で子育てをするとしたら、もっとこうあってほしいなと思うことがたくさんあるし、実際に乗鞍で子育てしている親御さんの話を聞いていても思う。

大きな課題は、お母さんが関わる人が少ないこと。お母さんの不安や悩みをカバーできないと、せっかく乗鞍に来てくれても、自分に合わないと感じて山を降りてしまいます。だから地域で少しでも、お母さんの不安や悩みをすくい上げる必要があるんです。
お母さんが抱えている悩みを解消したり、はけ口となる場をつくりたい。そのため、定期的に「きのこ」のスタッフである大先輩と共に、子育てサロンを開いています。

乗鞍の子どもたちって、たくましいんですよ。自分で火を起こそうとしてみたり、川に釣りをしに行ったり。自然全部が、庭みたいなもの。この環境で、のびのびと健やかに育っていける子供が増えたらいいなあと思います。そのためには、お母さんも健やかな状態で乗鞍にいられるような環境を整えなきゃいけない。
乗鞍で育った子どもたちが、自分たちの生まれた場所を「おもしろい」と思ってくれたらう嬉しい。そして大人になっても乗鞍を好きでいてくれて、なんらかのかたちで関わってくれたらいいなと思います。

理想の未来

将来のことはまだ考えている途中ですが、自然の中に、大人も子供も集える「居場所」をつくりたいなと思っています。
Raichoでカフェマネージャーとして働く中で、自分ではやらないと思っていた経営のことも学ばせていただいて。スキルアップしていく上で、すごく重要なことを教えてもらっています。だから、ここで学んだことを活かして、居場所づくりができたらいいなと思うんです。自然に囲まれた場所で、子どもも大人も誰でも集える場所。カフェのような、雑貨屋のような。乗鞍でも、乗鞍じゃなくてもいい。どこにでも需要はあると思うから。親御さんもお子さんも安心していられるような居場所を、自分でつくっていけたらいいなと思います。

藤江さんは、自分の持っているスキルをどんどん膨らませてくれる人です。Raichoで得られる経験は、間違いなく人生の糧になります。課題と一つひとつ向き合いながら、楽しむことも忘れず、できることをやっていきたいですね。乗鞍の自然と向き合うことを、自分ごとに感じてくれる人が増えたら嬉しいです。

雷鳥のいる未来を、
一緒に見に行きましょう

国の天然記念物である雷鳥は、「神の使い」とも呼ばれています。高山でしか生きることができず、私たちも中々出会うことができません。
雷鳥のいる景色を残すことは、大好きな自然の風景を残すことです。
理想と現実のギャップを受け入れながら、理想の未来に向けて一歩ずつ共に歩み、みんなで美しい景色を見に行きましょう。